Calm daily life of Arrancar





 ― お姉さん ―

「…………」

「…………」

 日課である散歩の途中、スノー・ナイトはとある人物と出会った。
 黒く長い髪が美しい破面の女性、第3十刃ハリベルの従属官であるスンスンである。
 スノーとスンスンは、お互い見つめ合ったまま動かない。
 いや、スノーは全身をプルプルと震わしていた。
 スノーを直視し、何かを考えてニタ〜と笑みを浮かべているスンスンに恐怖したのである。
 スノーはじりっと1歩後ろに下がる。
 それを追うように、スンスンが1歩前へ出る。
 2歩下がり、2歩前へ出る。

「っ!!」

 スノーが全力で駆け出した。
 スンスンはスノーを、不気味なまでの笑みを浮かべながら追いかける。
 破面で1番のスピードを持つスノーであるが、何故だろう、スノーとスンスンとの距離がどんどんと短くなっていく。

「獲物を追う蛇は早いのでしてよ」

 スンスンが誰も聞いていないことに答えるようにして言った。
 脳内に何かが流れたのだろうか?

「こ、来ないで!!」

 泣きそうな顔をしながらスノーが叫ぶ。
 そんなスノーの顔を見たスンスンは、

「あぁ……、その顔!! 最高でしてよ!!」

(いろいろな意味で)最高の笑みを浮かべ、両腕を大きく広げ、ガシィ!! とスノーを抱きしめ……捕獲した。
 どうやらスンスン、ショタに近い趣味をお持ちのようである。

「ウフ、ウフフフフ」

 スノーを抱きしめ(?)たまま不気味な笑い声を上げるスンスン。
 その状態のまま、彼女は何処かへ向かって歩き出す。

「――――!! た、助けてーーーーー!!」

 これから何が起きるのかは分からないが、とりあえず自分にとって最悪な展開が待っていることを察したスノーは、必死の叫び声を上げる。
 しかし、その叫び声は簡素な通路に虚しく響くだけであった――――




「ただいま戻りました」

 部屋の扉を開け、スンスンはそう言った。
 もちろん、その腕の中にはシクシクと涙を流すスノーの姿が。

「おう、お帰り〜って、何だソイツは!?」

「お、おまえ何処かから誘拐してきたんじゃないだろうな!!」

 スンスンと同じくハリベルの従属官、アパッチとミラローズが声を上げた。

「そんなことしませんわ」

 いやいや、正解である。

「おいおい、コイツ泣いてるじゃねーかよ」

「ちゃんと帰して来いよ、スンスン」

「ですから、誘拐なんてしてませんって」

 スンスンはスノーを抱きしめる腕に、帰すものですか!! と力をこめた。
 ベキベキッとスノーの背骨が鳴り、スノーの意識が一瞬遠のいた。

「た、助けて……」

 スノーがなんとか首を動かし、アパッチとミラローズに訴える。
 ちなみに、涙を流しながらの上目遣いである。
 あのバラガンを落とした瞳が、アパッチとミラローズを見つめる。

「「――――!!」」

 ずきゅーん!! てな感じで見事に落とされるアパッチとミラローズ。
 アパッチは顔を赤くしながら目を逸らした。
 何気に純なやつなのかもしれない。
ミラローズはなんだか子供大好きな保母さんのような顔をしながら、

「か、可愛い!!」

 とか言いながらスンスンからスノーを奪い取り、抱きしめた。
 筋肉質なミラローズである。
 スノーの背骨……いや、背骨とあばらが、スンスンの時以上にベキベキッと音を鳴らす。

「オイオイ、そいつ声にならない悲鳴を上げてるぞゴリラ女」

「ゴリラ女言うな!!」

 ミラローズの力が緩み、何とか抜け出すことに成功したスノー。
 しかし、背骨とあばらが痛くて部屋から逃げ出すことが出来ない。
 あぁ、助けて藍染様……。
 ふと、自分を生み出した男の姿が脳裏に浮かんだ。
 そんな時である。

「何をやっている、アパッチ、ミラローズ、スンスン」

 部屋の奥から、1人の女性が現れた。
 白い死覇装で口元まで隠した、エロセクシーで格好良い女性、第3十刃、ハリベルである。
 その女性がハリベルとは知らないスノーは、

「た、助けてお姉ちゃん!!」

 なんて叫んだ。
 ちなみに、何故にお姉ちゃんと言ったのかは、スノー自身分かっていない。
 ハリベルの目に、涙を流しながらの上目遣いのスノーの姿が映る。
 瞬間、

「!?」

 ハリベルの姿が消え、スノーの目の前に現れ、再び今度はスノーごと消え、元の位置にスノーをお姫様抱っこした姿で現れた。
 連続での響転の使用である。
 ハリベルはスノーを見て言った。

「今……何て言った?」

 あれ? なんかハリベル様の様子が変じゃね?
 なんて、アパッチ、ミラローズ、スンスンは3人同時に思った。
 理由の1つとして、ハリベルの頬が赤く染まっているからである。

「助けて……お姉ちゃん……?」

 スノーは真面目に答える。
 すると、ハリベルは目を閉じ、回れ右をし、そのまま部屋の奥へと歩いていく。

「は、ハリベル様?」

 アパッチが言った。
 ハリベルは足を止め、首だけを回して3人を見ると、

「私はこれから、弟と寝る。邪魔はするな」

 言って、再び歩き出す。
 いつのまにか弟にされたスノーは、え? え? とハリベルを見ながら、いくつもの「?」を頭に浮かべる。
 ハリベルの顔は、私これから弟と禁断の夜を過ごします!! みたいな表情を浮かべていた。
 スノーの額から、冷たい汗が流れる。
 奥の部屋へと消えていった2人。
 そしてその少し後、

「助けて藍染様――――――――――!!」

 なんてスノーの叫びが、虚夜宮に響き渡ったのだった。
 顔を赤く染めて互いの顔を見る3人の従属官。
 いったい奥の部屋で何が起きたのかは、ハリベルとスノーだけの秘密である――――