Calm daily life of Arrancar
― お小遣い ―
スノー・ナイトは昼の散歩をしていた。
鼻歌なんかは歌わないが、表情は普段より明るく感じる。
ちなみに、虚圏には夜しかない。
しかし、現世や尸魂界と同じように時間は進んでいる為、現在は昼である。
昼なのである。
スノーは昼の散歩を日課としている。
散歩というか、虚夜宮の探検と言った方が正しいか。
簡素でどこも同じような構造になっている虚夜宮は、スノーには良い暇潰しの場所といえた。
今日も見知らぬ部屋を発見しては、お邪魔します、の一声と共に、容赦なく扉を開けている。
そして、この日何個目かの扉を開けると、
「――――ヒィ!!」
そこには、おっそろしい顔をした老人が、威圧感バリバリで椅子に座っていた。
何処からどう見ても不機嫌な顔である。
スノーは一気に寿命が縮むのを感じた。
「何のようだ、餓鬼」
野太い声で老人、第2十刃、バラガン・ルイゼンバーンが言った。
スノーはビクビクッと大きく肩を震わせ、小さくなる。
しかし、
「――――僕、餓鬼じゃない」
珍しく反論をしてみせた。
そんなスノーの言葉に、バラガンはただでさえ鋭く威圧的な目を更に細め、スノーを睨み付けた。
スノーは慌てて、開けたままの状態の扉の後ろに隠れる。
そして、今にも泣き出しそうな目をしながら、
「が、餓鬼じゃないもん」
などと言ってみせた。
バラガンは驚いた。
自分がこのような目つきをすれば、どんな破面も平伏したのに、このスノーは違う。
ビビリはするものの、自分に対して反論をしてくる。
更に言ってしまうと、こないだ紹介された時と、今回の涙目のギャップが非常に可愛かった。
バラガンは目つきを元に戻し、というか、ちょっと(いろいろと)危ない目で、
「こっちに来い、スノー」
とスノーの名前を呼び、ごっつい手で手招きした。
先程までの威圧感を感じなくなった上に、自分の名前を呼ばれたスノーは、一瞬躊躇ったがバラガンの元へと歩いていく。
バラガンの元に辿り着くと、バラガンの手がスノーのへと伸びた。
(――――殴られる!?)
スノーはそう思い、とっさに目を瞑った。
しかし、いつになっても衝撃は来ない。
ゆっくりと目を開ける。
すると、
「殴りなどせん。ホレ、これをやる」
バラガンの手には何枚かの紙が握られていた。
人間の顔が描かれた紙。
それは、現世の紙幣だった。
しかも、諭吉さんが何枚も。
何でバラガンが現世の紙幣を持っているのか謎であるが、ここで悩みだすと一生悩むことになりそうである。
スノーはバラガンから諭吉さんを受け取った。
ちなみに、スノーに現世の紙幣等の知識は皆無である。
「これ、何?」
「それは現世の金だ。現世で物を買う時は、それを出せば買える」
一応説明をして貰ったが、スノーの頭には「?」が何個も浮かんでいた。
「スノー、お前に頼みがある」
「?」
バラガンは言うべきかどうか悩んだが、ここで言わなければ当分チャンスはないと思い、スノーに顔をズイッと近づけて言った。
「儂のことはお爺ちゃんと呼んでくれ」
「お爺ちゃん?」
「そうだ、お爺ちゃんだ!!」
バラガンの顔がニヤケだす。
こうなってしまっては、威厳も何もなくなっていた。
ただの気持ち悪いお爺さんである。
「もう1回言ってくれ」
「うん、お爺ちゃん」
スノーが言うのと同時に、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは2人の破面。
バラガンの従属官、鋭く長い牙を持つ頭蓋骨の仮面を付けたジオ・ヴェガと、仮面の残骸をヘルメットのように被ったニルゲ・パルドゥックである。
ちょっとした用事で訪れた2人だったが、見てしまった。
常に不機嫌な顔をし、威圧感バリバリの陛下様が、お爺ちゃんと呼ばれた挙句、ニヤケ顔でスノーの頭を撫でているのを。
「「――――」」
固まる2人。
「――――」
固まるバラガン。
そして、
「エヘヘヘ」
なんてお金を貰った上に頭を撫でてもらって嬉しそうに笑っているスノー。
「「失礼しました!!」」
見事にハモったジオとニルゲの声。
2人はそう言うと、響転で一気にその場を逃げ出した。
「待て!! この屑共!!」
バラガンも響転で追いかける。
その顔は、さっきまでのニヤケ顔なんかではなく、怒り、威圧感、その他いろいろを兼ね揃えた、まさしく陛下の顔つきであった。
まぁ、あの2人にとっては閻魔様のようなものかもしれないが。
「――――」
取り残されたスノーは、誰もいなくなったので部屋に帰ることにした。
此処に来ればお金を貰える上に頭を撫でてもらえる。
スノーはそんないらない知恵を付け、再びこの部屋に来ることを誓うのであった、まる。
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