Calm daily life
― お爺ちゃん ―
護廷十三隊一番隊隊舎の縁側。
そこに、2人の人物がいた。
1人は此処、一番隊の隊長であり、護廷十三隊を統べる総隊長、山本元柳斎重國。
そしてもう1人は、十三番隊平隊士の葵雪夜だ。
「総隊長、けっこう凝ってますね」
雪夜が元柳斎の肩を揉みながら言った。
鍛えられ、老人とは思えない体を持つ元柳斎。
しかし、やはり老人。
肩は凝りに凝っていた。
「ふお〜!! そこじゃ、そこが気持ち良い!!」
普段は威厳たっぷりな元柳斎であるが、雪夜に肩を揉んでもらっている時は違った。
もう、表情があれである。
まるで孫に肩を揉んでもらっているお爺ちゃんである。
現に、元柳斎は雪夜のことを、実の孫のように接しており、雪夜も元柳斎のことを、実の祖父のように接していた。
肩叩きをしたり、一緒に団子を食べたり、一緒に将棋を打ったりなどなど。
傍から見れば正に祖父と孫の関係である。
どうして2人がこのような関係になったのかは、きっとそのうち語られるはずである。
…………はずである。
しばらくのほほんと肩叩きをしていると、一番隊の縁側に、1人の男が現れた。
「おやおや、お孫さんに肩叩いてもらってるんですかい? 山じい」
「ほほほ、雪夜の肩叩きは気持ちが良いからの」
総隊長相手にそう軽々しく声を掛ける男の名前は、享楽春水。
護廷十三隊八番隊の隊長である。
元柳斎が設立した、2000年の伝統と格式を誇る死神育成機関、真央霊術院の卒業生で、卒業生から初めて隊長になった2人のうちの1人だ。
ちなみにもう1人は、雪夜が所属する十三番隊の隊長、浮竹である。
それにしても、元柳斎がお爺ちゃん過ぎるのは気のせいか?
いや、気のせいではない。
「享楽隊長、総隊長に御用ですか? でしたら僕は離れますが」
「いやいや、ちょっと散歩ついでに寄っただけだよ。気にしないで、葵君」
春水はそう言うと、元柳斎の隣に腰を下ろした。
「それにしても、山じいと葵君。こうして見ると、本当にお爺ちゃんと孫だね」
春水がケラケラと笑いながら言った。
「儂は雪夜を孫のように思っとるぞ」
「僕も、業務中は無理ですが、その他の時は実の祖父のように接しさせてもらってます」
2人の言葉を聞いて、春水が、ふ〜ん、と頷く。
そして、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべ、雪夜に言った。
「葵君、山じいにお爺ちゃんって言ってあげたら」
「え、えぇえええええ!?」
「山じいも言ってもらいたいでしょ?」
春水は元柳斎に振った。
しかし、元柳斎は何も答えない。
元柳斎が機嫌を損ねたと思った雪夜は、あわあわ、と慌てだした。
だが、春水は悪戯な笑みを浮かべたまま、元柳斎を見ている。
「ほらほら、葵君。山じいに言ってあげなよ」
「で、ですが!!」
「大丈夫だから」
春水は雪夜を元柳斎の目の前に立たせる。
そして、雪夜の顔が元柳斎の目線より少し下に来るようにしゃがませた。
更に肩を叩いてレッツゴーのサインだ。
どうやら、やるしかないらしい。
雪夜は覚悟を決め、
「元柳斎お爺ちゃん」
と、多少引き攣ってはいるが、微笑みながら言った。
するとどうであろう。
元柳斎がぶるぶると震えだした。
まるで壊れた洗濯機の様な震え具合である。
やばい、何だか分からないけど、これは非常にやばい。
雪夜は顔を青くさせる。
「だ、大丈夫で――――」
「ぶひゃーーーーー!!」
大丈夫ですか、総隊長!!
そう言おうとした雪夜の顔に、真っ赤な何かが噴き掛かる。
手で触れてみる。
少し粘り気のある、真っ赤な液体。
続いて、元柳斎の顔を見てみる。
鼻辺りの髭が真っ赤に染まっていた。
そう、つまりこれは――――
「総隊長の鼻血…………」
ザ・ワールド、時よ止まれ。
ポカンと時が止まってしまった雪夜と春水。
元柳斎に至っては出血多量でぴくぴくと倒れている。
実に、実に反応に困ってしまう。
「あ、葵君。取り合えず顔を洗って隊舎に戻っていいよ。山爺のことは何とかしておくから」
「は、はい」
5秒が経ち、時が動き出した春水が、雪夜に言った。
雪夜はそれに従い、その場を離れる。
残った春水は、未だぴくぴくと震えながら倒れている元柳斎を呆然と見ながら、ポツリと呟いた。
「大丈夫かな、護廷十三隊は……」
その後、四番隊へと運ばれた元柳斎の頭には、
「元柳斎お爺ちゃん、大好き!!」
と微笑みながら上目遣いで言う雪夜の映像が、暫く流れていたとかいないとか。
本当に大丈夫か、護廷十三隊……。
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