Calm daily life
― 猫好きと猫と雀蜂 ―
午前中の業務が終わり、昼休み。
護廷十三隊十三番隊平隊士、葵雪夜は、昼食も食べ終わり、ぶらぶらと瀞霊廷内をうろついていた。
これといった理由もなく、食後の運動と時間潰しを兼ねた散歩である。
なんだか日が照ってきたので日陰を歩く。
すると、
「――――お!!」
雪夜は1匹の猫を見付けた。
黒い、金色の瞳の猫だ。
猫好きな雪夜のテンションが、一気に上がった。
瀞霊廷内にいるということは誰かの猫なんだろうが、いったい誰の猫だろうか?
雪夜は一瞬そんなことを考えたが、
「猫ちゃ〜ん」
にやけた顔をしながら猫に近づいていった。
そのにやけ顔は、欲しい物を買って貰った子供のような、実に素晴らしい(?)にやけ顔だった。
そんな素晴らしい(?)にやけ顔で近づく雪夜に気付き、何ともいえない身の危険を感じた猫は、その場を逃げようと走り出した。
しかし、
「――――甘い!!」
雪夜は瞬歩で一気に猫に近付き、抱き上げた。
嫌がってじたばたと暴れる猫。
だが、雪夜はそんなことは気にせず、すりすりと頬を擦り付けるのであった。
「に、にゃーーーーー!!」
(何なんじゃコイツはーーーーー!!)
実はこの猫、元隠密機動のお偉いさんだった人が化けてたりするのだが、雪夜はそんなこと知らない。
見た目で判断、猫以外の何者でもない。
猫は普通に走って逃げるのではなく、お得意の瞬歩で逃げればよかったのだが、まぁ、そんなことを今更言ってももう遅い。
どれだけ暴れようと、いろんな意味で違う世界に逝ってしまっている雪夜から、逃げられそうになかった。
猫は諦め、雪夜が飽きるまで、仕方なくじっとしていることにした。
「ほ〜ら、ウリウリウリ〜」
雪夜が猫の喉元をくすぐりだした。
「うにゃ!? にゃ〜――――」
(な、何だこれは!? き、気持ち良い――――)
まさかの快楽。
喉元をくすぐられるのが、こんなにも気持ちの良いことだったなんて!!
とかなんとか、元お偉いさんな猫は目を細め、うっとりとした表情で雪夜のくすぐりを受け続けるのであった。
雪夜と猫のじゃれ合いを見ている、1人の人物がいた。
2の文字が書かれた隊主羽織を羽織った、小柄な女性である。
女性の名前は砕蜂。
隠密機動の現総司令官であり、護廷十三隊二番隊隊長でもある人物だ。
(ああ、夜一様!!)
物陰に隠れながら体をモジモジとさせ、やたら熱い視線で猫を見つめている砕蜂。
砕蜂の後ろをさっきから何人か通っているが、全員が全員、何やってるんだこの人は、と白い目で見ていた。
(アイツ、夜一様にあんなことを!! 私もやってみたい!!)
猫――――もとい夜一を見ていたと思ったら、今度は嫉妬心丸出しで雪夜を睨む砕蜂。
後ろを通る者達はやはり、何やってるんだこの人は、と白い目で見ていた。
(あぁ、私も夜一様と、あんなことやこんなことをしてみたい!!)
まぁ、夜一相手にあんなことやこんなことを出来るわけもなく、きっと夜一にあんなことやこんなことをされることになるのであろうが、砕蜂は、それはそれで良いな、とかなんとか思い、顔を赤く染めていやんいやんと体をよじる。
砕蜂の理性に限界が近付いてきた。
というか、プライドが高い砕蜂である。
こんなことをやっている時点で、もう理性など天元突破しているのであろう。
気が付くと砕蜂は、じゃれ合う雪夜と夜一の方へと向かって、瞬歩で移動していた。
「――――ぬあ!!」
「――――にゃ!!」
(――――何じゃ!!)
突然目の前に現れた砕蜂にマジびびりした2人(?)。
雪夜が気付かなかったのは仕方ないが、元隠密機動総司令官の夜一が気が付かなかったのは、雪夜による喉元のくすぐりで違う世界に逝っていたからだったりする。
「――――らせろ」
「え?」
砕蜂が何かを言い、聞き取れなかった雪夜が聞き返す。
「私にも夜一様とじゃれ合わせろーーーーー!!」
「ひぇえええええ!!」
殺気すら含んだ砕蜂の叫び。
雪夜は殺されると本能で察し、抱えている夜一すらもびっくりな瞬歩で逃げ出した。
「逃がすかーーーーー!!」
砕蜂も隠密機動総司令官の名に相応しい速さの瞬歩で追いかける。
普通ならすぐに捕まえることが出来るのだが、本能のままに逃げている雪夜は想像以上の速さで、砕蜂ですら容易に追いつくことが出来ない。
そのことに、雪夜に抱えられている夜一も驚いていた。
(――――こやつ、何番隊かは知らぬが、良い瞬歩を使う)
砕蜂もすぐに追いつくことが出来ないことに多少驚きつつ、しかし脳内は夜一様一色である。
脳内メーカーを使ってもきっとそう表示されるだろう。
(くそ!! あいつは確か十三番隊の平隊士のはずだ!! 何故平隊士に私が追いつけない!!)
イライライライラ。
イライライライライライライライラ。
――――プチン。
何かが砕蜂の中で切れた。
背中に鬼を作り出す化け物の息子並みのアドレナリンを分泌させながら、砕蜂は瀞霊廷内では禁止されている、斬魄刀の開放をした。
「尽敵螫殺、雀蜂!!」
「えぇえええええ!?」
2撃必殺な脅威が雪夜に襲い掛かる。
アドレナリンを分泌させた砕蜂のスピードは遥かに上がり、雪夜との距離を一気に埋める。
「死ねぃ!!」
砕蜂が雀蜂を振りかざす。
雪夜の顔が恐怖に染まる。
そして、あまりの恐怖に、
「――――破道の四、白雷!!」
無意識のうちに鬼道なんてものを使っていた。
指先から一直線に砕蜂へと向かっていく雷。
砕蜂は何とかそれを避けるが、
「――――ぶが!!」
正面から建物の壁に激突した。
ずるずると落ちていく砕蜂。
その後ぱたりと倒れた砕蜂の目は、ぐるぐると回っていた。
何とか逃げ延びた雪夜は、真っ先に十三番隊の隊舎に逃げ、自分の机の下で夜一を抱え、ビクビクと震えているのであった。
その後、夜一にお灸を据えられ理性を取り戻した砕蜂が、雪夜を二番隊に寄こせと十三番隊に乗り込んだのだが、それはまた別の話――――
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