Calm daily life
― 干し柿 ―
「お腹がすいた……」
三番隊に書類を届けた帰り道、十三番隊平隊士、葵雪夜は腹を抱えながら呟いた。
朝寝坊をしてしまい、朝食を食べていないのが原因だったりする。
もう少しで昼休み。
昼休みになれば昼食を食べることが出来る。
しかし、
「お腹がすいた……」
へなへなへな、と雪夜は膝を付いてしまった。
何か軽いものでもいいから胃に入れたい。
そうすれば昼休みまで我慢できそうなのだが、この近くには店なんてものは存在しないのだった。
「何してんねん、雪夜君」
ふと、上から声がした。
顔を上げてみると、そこには銀髪の狐顔の男が1人。
三番隊隊長、市丸ギンがそこにいた。
「何や、雪夜君腹減ってんの?」
「はい、非常にお腹がすいてます。もう、隊舎に戻れないくらいに」
雪夜はそう言って、さっきから鳴りっぱなしの腹を抱えこむ。
あまり自分の腹が鳴っているのを聞かれるのは、恥ずかしいものがある。
「なら、僕が君に良い物をあげる」
言って、市丸は死覇装の胸元から何かを取り出し、雪夜に差し出した。
それは、
「……干し柿?」
「そや。僕が作ってんねん」
市丸は、ほれ、と雪夜に干し柿を持たせる。
雪夜は渡された干し柿を見て、
「これ、毒とか入ってないですよね?」
「酷い!! 雪夜君は僕が毒を入れるような奴に見えるん!?」
「見えます」
即答だった。
市丸は涙を流しながら、ガーン……、とその場で跪く。
日頃仕事をサボっているからそう思われてしまうのだろうか?
それとも、日頃人をからかって遊んでいるからそう思われてしまうのだろうか?
どちらにしても、日頃の行いがよろしくない結果であった。
「泣かないでください、市丸隊長」
「うぅ……。なら、干し柿食べてくれる?」
市丸が顔を上げる。
その顔にはもう涙なんかは流れておらず、よく表情が変わる人だ、と雪夜は溜息を吐いた。
「いただきますよ」
せっかく貰った干し柿だ。
貰わない理由なんてものは無い。
雪夜は小さく一口、干し柿を齧った。
「――――おいしい」
「やろ!! 僕、干し柿に関しては真面目やねん」
その真面目さを仕事にも発揮すればいいのに。
三番隊の副隊長様も大変だ。
雪夜は残りも食べ、立ち上がる。
干し柿1つではあるが、胃に何も入っていない時よりはマシになった。
「干し柿ありがとうございます。今度何かしらお礼を……」
「ええねんええねん。気にせんといて」
雪夜は改めて礼を言ってから歩き出す。
しばらく歩くと後ろから、
「雪夜君は僕のこと好き?」
それはいったい、どういう意味なのか。
雪夜は一瞬考えるが、すぐに悪戯な笑みを浮かべて振り返る。
「市丸隊長のことは嫌いですが、隊長が作った干し柿は大好きです」
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