Calm daily life





 ― 夕焼け空 ―

 護廷十三隊、十三番隊隊舎。
 その屋根の上に、白髪の死神が1人、仰向けになって寝転がっていた。
 十三番隊平隊士、葵雪夜である。

 午前中の仕事を終わらせ、昼休み。
 雪夜は昼食をとった後、必ず隊舎の屋根で寝転がるのを日課としている。
 まぁ、天候が悪い日は隊舎内でゴロゴロと過ごすのだが……。
 そんなことは置いといて、

「ふぁ〜……」

 大きな欠伸を1つする。
 今日は気持ちが良いくらいに快晴だ。
 青い空に白い雲。
 そして、眠気を誘う暖かい日差し。

「ん……」

 瞼が重くなってきた。

「寝るのは……マズイ……」

 そう、寝るのはマズイ。
 何故なら、午後の仕事までに起きる自信が、まったくと言っていい程に無いからだ。
 雪夜は必死に目を開けていようとするが、それは5分と持たず、

「…………ぐー……」

 結局は眠ってしまうのであった。




「――――」

 目を覚ますと、空は既に赤く染まっていた。
 あぁ、やってしまった……、なんて思いながら、雪夜は体を起こす。
 すると、

「やっと起きたか、この馬鹿者め」

 背後から声がした。
 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには女性の死神が1人立っていた。
 朽木ルキア。
 雪夜と同じ十三番隊の平隊士であり、雪夜の幼馴染の女性である。

「午後の仕事は……もう終わっちゃった……よね?」

 恐る恐る聞いてみる。
 まだ終わってないようなら、昼寝をしてしまったことを土下座で謝り、すぐにでも仕事に取り掛かるつもりであったが、

「あぁ、もう終わっている」

 ルキアは目を伏せながら、そう答えた。
 そっか……、と雪夜は苦笑をし、ルキアから視線を外して再び前を向いた。

「…………」

「…………」

 沈黙。
 お互い何も喋らない。
 静かな時が、しばらく続く。
 そんな静かな時間を終わらせたのは、ルキアだった。

「お前と初めて会った時も、このような空だったな」

 懐かしむような、ルキアの声。
 雪夜は、そうだね、と一言返し、初めて会った時のことを思い出す。
 それは今から何年……いや、何十年前のことだったかは覚えていない。
 けれど、今と同じような、赤く染まった空の中でのことだったのは、鮮明に思い出せた。

「さて、そろそろ隊舎に戻るぞ」

「あ……でも……」

 今隊舎に戻るのは、ちょっと気まずかった。
 だがルキアは、

「誰もお前のことを怒ってなどいない。むしろ、真面目過ぎるお前がサボったことに安心している。
ほら、さっさと行くぞ。少し寒くなってきた」

 そう笑みを浮かべながら言って、雪夜に手を差し伸べる。

「――――あ」

 夕日を背にしたルキアのその姿が、初めて会った頃と重なって見えた。
 あの時と同じように、優しく微笑みながら手を差し伸べてくれるルキア。
 それが何だか、とても嬉しくて、

「うん」

 雪夜はあの時と同じように、彼女の手を握り返すのだった――――