Calm daily life





 ― 出会い ―

 夕焼け空の下。
 小高い丘に1本だけ生えた大きな木の根元に、少年が1人、寄りかかって座っていた。
 薄汚れた着物を着た、白髪の少年である。

「――――疲れた」

 少年は夕焼け空を見ながら、ポツリと呟いた。
 そして、懐から小さな瓶を取り出し、口につける。
 中に入っているのは、水だった。
 ごくごく、と喉を鳴らしながら飲み、全部無くなったら瓶を投げ捨てる。
 どうせ自分のではないのだ。
 持っていても邪魔になるだけだった。

「――――疲れた」

 少年は再び呟く。
 そして、木の根元に寄りかかったまま、目を閉じる。

 南流魂街、78地区、戌吊。
 現世で死亡した少年が、死神という存在に尸魂界に魂送され、辿り着いた場所がそこだった。
 流魂街は1から80までの地区があり、数字が大きくなる程治安が悪くなる。
 78地区なんてところは、少年にとって地獄のような処だった。

 戌吊では、普通の生活なんてものは出来ない。
 大人は全員人殺しか盗人で、子供は全員野良犬のようなものである。
 大人の目を掻い潜り、食料を奪って逃げる毎日。
 さっき飲んでいた水も、このようにして手に入れた物だった。
 こんな生活に、少年は疲れてしまった。
 そう、

 ――――もう、死んでしまってもいいと思ってしまうくらいに。

「お前、何をしているんだ?」

 ふと、声が聞こえた。
 少年は目をゆっくりと開け、声がしたほうを向く。
 そこには、1人の少女が立っていた。
 少年と同じような、薄汚れた着物を着た少女である。

「君は……誰……?」

 少年は少女に聞いた。

「私か? 私はルキアだ」

 少女は自分の名前を言った後、お前は? と少年に聞いた。
 少年は少し黙った後、

「……雪夜。葵、雪夜」

「そうか、雪夜か!! 何だか私の名前と似ているな!!」

 そう、笑顔を浮かべながら、少女――――ルキアは言った。
 そしてルキアは、少年――――雪夜へと手を差し伸べる。

「もし、もし良かったら、私と一緒にいないか?」

「――――え?」

「1人よりも、2人の方がきっと楽しいと思うのだ」

 それは雪夜のことを言っているのか、それとも自分のことを言っているのか、それは雪夜には分からなかった。
 だけど、尸魂界に来てから、そんなことを言われるのは初めてで、

「…………」

 思わず雪夜は黙ってしまう。
 1人で生きていくことにはもう慣れている。
 けれど、もし。
 もし一緒にいても良いと言うのなら、

「…………一緒に、いても良い?」

「――――!! ああ!!」

 夕日で赤く染まった空の下。
 少年と少女は、手を握り合う――――