狂人を崇める少年





 ― 7 ―

 エルクがデュラムを殺してから2日。
 心地よい風が吹く晴れの日、エルクはクリードの前にいた。

「トレインに、会ってみたい?」

 エルクが言った言葉を理解できず、思わずクリードは聞き返した。
 何故? どうして? ホワイ?
 クリードの頭の中で、そんな単語がぐるぐると回っている。
 普段のクリードでは決して見ることが出来ない、とても珍しい光景だった。

「そう、トレイン=ハートネットに会ってみたい」

 エルクは真面目な顔で答える。

「前からトレインの凄さは耳にたこが出来るくらい聞かされてたけど、俺はまだ1度もトレインに会ってない」

 どんな奴なのか見てみたいんだ。
 エルクはそう付け足した。

「駄目に決まっているじゃないか!! 下手に接触したら危険だよ!!」

 クリードの横に立っているエキドナが声を荒げる。
 エルクを心配しているのだ。

「私もそれには反対だ」

 シキも声を荒げはしないが、静かに言った。
 覆面なので外からじゃ表情が分からないが、実はかなり動揺していたりする。
 我ら星の使徒のアイドルを、危険に晒すわけには行かない!!
 てな感じである。
 ちなみに、エルクには知られていないが、星の使徒内にはエルクのファンクラブが(何故か)存在する。
 会員番号1番がクリード、2番がリオン、3番がシキ、4番エキドナ、5番キョウコ(以下続く)だったりする。
 覆面なのをいいことに、実際何を考えているのか分からない奴だった。
 とまぁ、反対する2人は置いといて、クリードの返答はこんなものだった。

「エルク!! 君もトレインの凄さを直に見たいんだね!! 是非とも行っておいで!! あぁ、エルクがトレインに興味を持ってくれるなんて!! 僕は何て幸せなんだろう!!(←意味不明)」

 エルクとシキとエキドナの3人は、ポカーン、と開いた口が塞がらない。
 目も点になっている。
 3人が元に戻るのと、クリードがこの世界に戻ってくるのは、これから1時間程後のことだった。




 というわけでやって来ました、トレインがいるらしい町。
 エルクはくっちゃくっちゃとガムを噛みながら、町をうろちょろと歩いている。
 本当にこの町にいるのか分からない。
 まぁ、星の使徒が(クリードの命令で)全力で捜査したらしいからいるとは思うが。

「あ〜あ、早く見付からないかな…………」

 そんなことを言いながら歩いていると、

「オラァ!! ちょっとでも動いてみやがれ!! 動いた瞬間こいつの頭が吹っ飛ぶぞ!!」

 なんて声と共に、エルクは誰かに強引に引き寄せられた。

「え?」

 思わず間抜けな声を出してしまう。
 何だ、いったい何が起きた?
 エルクの首には何やら太い腕が。
 その腕を辿って行くと、何やら厳つい顔をした、ニット冒のお兄さんがいた。
 フーアーユー?

「テメェ、人質とるなんざ卑怯だぞ!!」

 え、何、俺って人質にされてんの?
 エルクはそう思いながら、この厳ついお兄さんを追いかけていると思われる人物へと顔を向けた。

「――――――――!!」

 何ということでしょう、この厳ついお兄さんを追いかけている人は、トレイン=ハートネットさんでした!!

(え、ちょ、道使えないじゃん!!)

 道の力でこんなお兄さん殺してしまおう、なんて思っていたエルクだったが、探し人のトレインさんが目の前にいちゃ、道なんて使うわけにはいかない。

「オイテメェ!! その子を放して俺に捕まれ!!」

「んなことできるかボケェ!!」

 この厳ついお兄さんは逃げる気あるのだろうか?
 エルクはジト目でお兄さんを眺める。
 しかし、こんなおバカな展開であれば、なんとかこの太い腕から逃げられそうだ。
 エルクは太い腕から逃れるそぶりをしつつ、トレイン側から見えないように、微弱な電流をお兄さんの腕に流した。

「――――っ!!」

 緩まる太い腕。
 エルクはその一瞬でお兄さんから逃げ出した。

「クソッ!!」

 お兄さんがヤケクソ気味に、トレインに向かって銃を何発か撃ち込む。
 が――――

「おっと」

 全てを黒い装飾銃、ハーディスで受け止める。
 驚き、そして固まるお兄さん。

「……ワリィけどさ」

 お兄さんの額に、ハーディスが突きつけられる。

「俺が欲しいのは鉛玉じゃなくて、あんたの首にかけられた褒賞金なんだよね」

 トレインはニカッと笑って、そう言った。