狂人を崇める少年





 ― 5 ―

 サンゼルスシティでの出来事から1週間。
 エルク達星の使徒のメンバーには、クリードからお暇を貰っていた。
 ドクターはあの手この手を使ってエルクにアプローチを送っていたが、リオンやキョウコやエキドナ、更にはクリードにまで邪魔をされ、1度もエルクと過ごすことは無かった。
 …………というのは置いといて。

「キョウコ、リオン、くっ付くなよ!!」

 エルクはキョウコとリオンにくっ付かれながら、とある町の商店街をぶらぶらお回っていた。
 サンゼルスシティではキョウコだけだったが、今回はリオンまでもがくっ付いている。
 動きづらいったらありゃしなかった。

「いいじゃないか、たまには」

 とリオン。
 さり気に頬が赤く染まっていたりするが、幸いエルクには気付かれてはいなかった。

「そうですよ、たまにはいいじゃないですか」

「ええい!! 何がたまにはだ!! キョウコはこないだもくっ付いてきたじゃないか!!」

 エルクは体をぐりんぐりんと動かすが、両サイドから固められては動けない。
 そうやら今回も、この状態で1日過ごすのは決定のようだった。

「な!! あんたズルイぞ!!」

 リオンがキョウコに訴えかけるが、キョウコは口を“3”のような形にしながら、

「こういうのは早い者勝ちなんですよ〜。そういえばリオン君って、こういう人の多い所嫌いって言ってませんでしたっけ?」

 キョウコがニヤリと悪戯な笑みを浮かべ、リオンに反撃する。
 ちなみに、キョウコはリオンがエルクにお熱ということを知っているので、弄りがいがあるのだった。

「そうだったのか、悪いなリオン」

 リオンを誘ったのはエルクだった。
 実に申し訳なさそうな顔で謝るエルクに、リオンは頭の中がテンパってきていた。
 いつものクールさが台無しである。

「い、いいんだ!! ほら、たまにはこういう所も来るのも悪くないかな〜って!!」

 顔を真っ赤にさせ、目をぐるぐると回しながら言い訳するリオン。
 そんなリオンを見て、キョウコはげらげらと笑い始めた。
 エルクは最初はあまりの勢いにきょとんとしていたが、

「ありがとな、リオン」

 とリオンにとって最上級な笑顔で言った。
 ぷしゅ〜、とリオンの頭から白い煙が放出される。
 そして、

「り、リオン!!」

「ありゃりゃ、リオン君大丈夫ですか〜?」

 そのまま倒れてしまうのだった。
 大丈夫か、星の使徒のメンバー。




 しばらくして、

「こんなところにいましたカ、3人共」

 捜しましたヨ、とシャルデンが現れた。
 表情はいつものようにのほほんとしているが、雰囲気はいつもと違っていた。

「何かあったの?」

 それに気付いたリオンがシャルデンに問う。
 シャルデンは表情に少し影を落とし、

「…………えぇ、“同士諸君は全員アジトに戻るように”とシキさんから指示デス」

「もしかして、次のお仕事ですか!!」

 キョウコが待ってましたと声を上げる。
 しかし、エルクはシャルデンの雰囲気から察し、

「そういうわけじゃないみたいだね」

「えぇ、実は…………」




 星の使徒のアジト。
 そこに、全メンバーが揃っていた。
 その中で、1人だけ浮いている人物がいる。
 デュラムだ。
 いつも付けているマスクは付けておらず、その代わりに頬に大きな痣があった。

「…………どういうつもりだ、デュラム。同士に何の報告も無く1週間以上も姿をくらまして」

 説明してもらおうか、とシキがデュラムに迫る。
 瞬間、デュラムは、うるせぇ!! 何時何処へ行こうが俺の勝手だろうが!! と、怒りをあらわにしながら言った。
 何だか荒れてますね〜、と小声でキョウコがエルクに耳打ちする。

「…………説明くらいはして欲しいな」

 クリードが持っていたグラスをテーブルに置き、デュラムに言った。
 デュラムはしばし黙った後、

「…………戦ってきたぜ、あんたがよく言う“最強の銃使い(ガンマン)”と」

 クリード、そしてエルクがピクッと反応する。
 クリードの言う “最強の銃使い”。
 その人物は、クリードがクロノスにいた頃から心酔しているトレイン=ハートネットという人物だ。
 現在はクロノスを抜け出し、仲間と共に掃除屋(スイーパー)をやっている。

「ほぉ、トレインと。…………で? その顔を見る限り、見事に負けたようだが」

「…………」

「これで分かったろう、僕が言っていたことが正しいということが。彼は唯1人、僕が尊敬する人物であり、いずれ星の使徒の同士として世界を導く者なんだよ」

「違う!! これは俺が油断してたからだ!! でなきゃ俺があんなクソネコ野郎に負ける筈がねぇ!!」

 デュラムのその言葉に、エルクの顔が歪む。
 クリードに逆らうものは許さない。
 クリードに逆らうものには――――

「俺はもう一度奴に挑むぜ!! そして今度こそ奴をバラバラに――――」

 瞬間、白き稲妻がデュラムを襲った。
 突然の出来事に反応できなかったデュラムの体が、一瞬にして黒焦げになる。

「!!」

「!!」

 一瞬の出来事。
 黒焦げになり、その場に倒れたデュラムを見て、シャルデンとキョウコの目が大きく見開く。

「クリードに逆らうことは許さない」

 エルクの静かな声が、部屋に響き渡った。

「ありがとう、エルク。僕の代わりに殺ってくれて」

 クリードが優しい笑みを浮かべながら、エルクを抱きしめた。

「全てはクリードの為」

 クリードの服に顔を埋めた状態で、エルクがポツリと呟く。
 そう、全ては自分の救世主(クリード)の為。
 エルクにとってクリードは、世界を変えてくれた救世主なのだから――――