狂人を崇める少年
― 4 ―
サンゼルスシティのとあるビルの屋上。
そこに、クリード率いる星の使徒のメンバーがいた。
「皆殺しだ」
クリードが右手に薔薇を持ちながら、静かに言った。
「会議(サミット)に集まる首脳20人。そして、それを阻む者は全て殺せ……!!」
今日、このサンゼルスシティでは、世界連邦加盟国の首脳20名近くが一同に会する会議(サミット)が開かれる。
その中には、クリードが昔所属していた世界の3分の1を裏で操る秘密結社、クロノスの幹部が数名混じっている。
その幹部と他の首脳達を皆殺しにし、クロノスに、そして世界に宣戦布告をするのが、今回の星の使徒の目的だった。
「全世界を敵に回すつもりかい?」
ドクターがクリードに、答えの分かっている問いを投げかける。
クリードは笑みを浮かべながら、
「もちろん」
と答えた。
「……本当に構わないんだな、全員殺しちまっても」
デュラムがクリードに近寄り、確認する。
その瞳は充血しており、人を殺せる喜びを隠しきれていない。
「好きなように殺りたまえ。そろそろ血に飢えているだろう? デュラム」
クリードのその言葉を聞き、デュラムは振り返り歩き出す。
そして、マスクの下の口を大きく歪ませながら言った。
「……最高だ」
会議(サミット)の為に厳重に警備され、人通りの少なくなった道をエルク、キョウコ、シャルデンが歩く。
キョウコはエルクにべたべたとくっ付いており、シャルデンはそれを微笑ましそうに後ろを歩きながら見ている。
「キョウコ、歩きづらいよ…………」
自分よりも身長の高いキョウコにくっ付かれ、非常に歩きづらいエルクは、キョウコに対して苦言を呈する。
しかしキョウコは、
「いいじゃないですか、久しぶりに会ったんですから!! キョウコは日々エルク君のことを思ってたんですよ〜!!」
「おやおや、キョウコさんは格好良い男性が好みだったんじゃないデスか?」
「そうですよ、シャルデンさん。キョウコは格好良い男の人がタイプなんです!!」
「じゃあ、何で俺のことなんか…………」
「だってぇ、エルク君可愛いじゃないですか!! 俺じゃなくて僕だったらもっと最高です!! 付き合うなら格好良い人ですけど、キョウコは可愛い男の子も好きなんです」
言って、キョウコは更にエルクにくっ付く。
あぁ、歩きづらいったらありゃしない。
解こうにも解けそうに無いので、エルクは仕方なくそのまま歩くことにした。
ついでに、可愛いと言われたことに少し凹んだりしていた。
やっぱり、男なら格好良いと言われたいものなのだ。
しばらく歩くと、エルク達は警備の為に道を塞いでいる警備員達に出くわした。
「おい、君達。ここからは許可証が無いと入っちゃ駄目だぞ」
さぁ帰った帰った、と手をヒラヒラさせる警備員。
そんな警備員にエルクは右手を向け、中指で親指を弾き、指を鳴らす。
瞬間、白い稲妻が警備員へと襲い掛かる。
「ぎ、ぎゃああああああああああ!!」
黒焦げになった警備員。
周りにいた他の警備員は、何が起こったのか分からず呆然としている。
星の使徒は全員“道(タオ)”と呼ばれる異能の力を持っている。
星の使徒のメンバーであるシキが作り出した薬、“神氣湯”を飲むことで得た力である。
神氣湯を飲めば誰でも道の力を得られるわけでなく、なかには死んでしまう者もいる。
エルクが神氣湯を飲んで得た力は“雷(サンダー)”。
体から電気を放出し、それを操り相手に食らわす異能の力である。
今回と以前浮浪者に対して行ったことは、指を鳴らすことで発生させた電気を、稲妻のように相手に飛ばすという、実にシンプルなものだ。
「じゃあ、私はあちらに行きます」
「じゃあ、キョウコあっちです!!」
「それじゃあ、俺はここから行きますか」
またあとで〜、と手を振りながら分かれる3人。
さてと、とエルクは残りの警備員を見渡した。
未だ呆然と動けないでいる警備員を見てエルクは、
「ほらほら、目の前に不審者ですよ? 捕まえるなり、撃ち殺すなりしないと」
言って、再び指を鳴らす。
今度はそれぞれの警備員に向けて何回も。
再び白い稲妻が警備員達を襲い、黒焦げにしていく。
結局、誰1人として反撃してくる者はおらず、その場はすぐに静かになった。
「――――つまらない」
エルクは次の獲物を求め、歩き出す。
「今度は反撃してくるといいな」
そう、口を歪ませ、不気味な笑みを浮かべながら――――
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