狂人を崇める少年





 ― 2 ―

 エルクは携帯電話の画面を見ながら、町で1番高いビルの屋上にいた。
 高い所という事あって、風が非常に強い。
 気を緩めたら地上に真っ逆さまになりそうだ。
 まぁ、ちゃんと落下防止のフェンスがあるから大丈夫ではあるが。

「ったく、リオンのやつ。メール送ってくるの遅いんだよ」

 エルクが見ている携帯の画面には、こう書かれていた。

『今からお前がいる町まで迎えに行くから、1番高いビルの屋上で待ってろ』

 実に一方的なメールだった。
 エルクは携帯を折りたたみ、ポケットにしまう。

「別にビルじゃなくてもいいのに。おかげでゴミ掃除するはめになっちゃったし」

 エルクがいるビルには、現在エルク以外は誰もいない。
 否、もうエルク以外は誰もいないと言った方が正しいか。
 このビルのどのフロアにも“生きた人間”はおらず、このビルのどのフロアにも“黒焦げになった人の形をした物”が転がっている。

「ふぅ……こうなったらリオンのこと、徹底的に弄ってやる」

 エルクがそう決めた直後。
 エルクの目の前に、1機のヘリが降り立った。
 ドアが開く。

「よう、エルク!! 迎えに来たぞ!!」

 紫髪の、エルクよりも少し年下と思われる少年、リオンが顔を出し、エルクへと声を掛ける。
 ――――が、

「おいおい、プロペラの音で何言ってるか分からねーよ」

 と、エルクは笑みを浮かべながらポツリと呟いた。
 あらかた、さっさとこっちに来い、なんて言われていると思ったエルクは、ヘリへと向かって歩き出す。

「よう、リオン久しぶり。ついでにデュラムも」

 リオンの隣にいるなんか面白い形をしたマスクを付けているガンマン、デュラムにもついでに挨拶。
 ちなみに、デュラムはデュラムでも、カップ麺のおばさんとは何も関係が無い。

「俺はついでなのか!! というか、何だ今の補足説明は!!」

「うるさいな、閉所及び暗所恐怖症のマスクマン」

「何だとこのスケボー小僧が!!」

「スケボーじゃない!! エアーボードだ!!」

「はいはい、どうでもいいけど俺入りますよ〜。っと、リオンもっと詰めろよ。ドア閉めらんないだろ」

「ま、待ってくれ!! もう少し日の光を浴びさせてくれ!! つーか、何でこのヘリ明かりが無いんだよ!!」

 ドアが閉まり、ヘリが空へと舞い上がる。
 中では未だギャーギャーやっており、ヘリは左右に大きく揺れながら飛んでいくのだった。
 お、危うく他のビルに突っ込みそうになった。

「や、やめてください、皆さん!! あまり揺らすと事故っちゃいますよ!! というか、ビルに突っ込みますよ!!」

「「「すいませんでした」」」

 普段なら誰も逆らえないような力を行使する3人。
 しかし、事故られたらたまったものではない。
 すぐに暴れるのを止め、3人同時に頭を下げるのだった。
 というか、自らビルに突っ込むとか、どんだけ肝の据わったパイロットだよ。

 こうして、3人はヘリに乗って目的地へと向かうのだった――――